橋川 昇平

HASHIKAWA Shohei

「虚構器官11」

映像インスタレーション

文明には水源が必要だと聞いたことがあります。飛鳥ではそれはきっと飛鳥川で、歌に読まれているように僕らのご先祖さまの生活の近くには飛鳥川のせせらぎが聞こえていたんだと思います。その歌は僕らのご先祖さまが生活の中で感じ取ったものを飛鳥川の流れや、玉藻や、何かに投影したものです。読み手はその情動を言葉に置き換えることで長い時間や距離を乗り越える力を与えました。しかし、言葉にしなくても人の身体はその情動を伝えることができます。例えば興奮して脈が速くなったり、あるいは恐怖のあまり青ざめたり。それは未来に伝わるものでも遠くの誰かに伝えることができるものでもないけれど、確かに今ここにいる個人の情動を伝えることができます。芸術には言葉にならないものをコミュニケーションの場に立たせる力があります。ここでは言葉ではない身体からの出力として脈拍を読み取り、映像をリアルタイムで生成してピアノに投影しています。同時に脈拍からピアノの音を作り、飛鳥川流域で録音した自然音とともに会場に流しています。僕らのご先祖さまは生活の中で、自然から受け取ったものや自分自身の心の機微を言葉にし、環境に投影してきました。
僕らの国が生まれた時から、ずっと。 川の流れが絶えないように、ずっと。
これは脈拍・川の流れ・情動・言葉を互いに投影し、過去から現在に至る人の営みを可視化する作品です。

profile

1983 奈良県生まれ
2010 大阪美術専門学校 美術・工芸学科 卒業
2012 大阪芸術大学 美術学科 卒業

〈 主な展覧会歴 〉

2014 個展「虚構器官 橋川昇平展」ギャラリー檜plus(東京)
「尼崎アートフェスティバル」尼崎総合文化センター(兵庫)
2015 個展「虚構器官 橋川昇平展」ギャラリー檜plus(東京)
「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2015」今井まちや館(奈良)
2016 個展「虚構器官 川昇平展」ギャラリー檜e・F(東京)

「虚構器官12」

映像インスタレーション/5分30秒

僕らはインターネットを通じて誰もが自分を発信し、誰もが5分で有名になれる。たくさんの個人の物語は共有されることでやがて空気になり、時に人の意識を縛ります。そんな時代に、今ここでしか伝わることができなかった昔話や伝承は消えていこうとしています。語り手ではない誰かの物語が失われていこうとしています。文字は遠くに伝わります。空間も時間も超えて。でも、声はその場限り。文字のように正確でもないし、遠くに伝える力もない。とても不便だけれど、そこには音量があって、アクセントがあって、速さがあって、抑揚があって、間がある。声は語り手によって受け継がれ、繰り返されるごとに新たに発見され、解釈され、作られる。ここでは物語を伝える声を残します。芸術には言語化できないものをコミュニケーションの場に持ち込む力があって、文字になることでこぼれ落ちてしまったものを保存し、再び共有することができる。
私の物語ではなく、あなたと私が共有するコミュニティとしての空気を。

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